出演経験者らが語る武道館公演にまつわる秘話をずん飯尾とコムアイが絶妙な掛け合いで聞き出す

2020.08.25馬飼野元宏

日本のミュージックシーンに燦然と輝く瞬間に、グイグイと迫る、歌謡ポップスチャンネルの注目番組『MUSIC JUNCTION』。今年4月からスタートしたこの番組の最新回、2回にわたって放送される「日本武道館伝説ライブ」(17日(月)後9:00~/31日(月)後9:00~)の収録現場に潜入した。

筆者は、事前特番「80年代女性アイドル伝説feat.松田聖子」篇に、「天の声」役で声だけ出演させていただいたのだが、今回、再びお呼びがかかり「日本武道館伝説ライブ」のA面(前編)に、リモートにて参加が叶ったので、今回は出演しながらのルポという変則的な形でお届けする。

同番組のMCはずんの飯尾和樹と、水曜日のカンパネラのコムアイという異色の組み合わせ。最初の顔合わせとなった3月の事前特番の際は、ほのぼのした雰囲気ながら、まだお互いの個性にどこまで入り込んだらいいものか、手探りな印象もあったが、回を重ねてアドリブも連発、ボケとツッコミのテンポも快調で、今やすっかり名コンビとなっていた。目指すところは令和の黒柳徹子&久米宏か、はたまた井上順&芳村真理か。

ゲストはサンプラザ中野くんと加藤いづみ。サンプラザ中野くんといえば、爆風スランプのボーカルとして活躍し、日本武道館の上に載る擬宝珠を玉ねぎに見立て、切ない恋の物語と武道館への思いを込めた名曲「大きな玉ねぎの下で」の作者でもある。いっぽうの加藤はシンガー・ソングライターでもあり、小田和正をはじめとするビッグ・アーティストのコーラスもつとめ、ともに何度も武道館の舞台に立った経験がある。ちなみにMCのコムアイも武道館ライブ経験者。残る飯尾はといえば…清掃のバイトで入った!とのこと。

まずは飯尾が「サンプラザ中野くん、さん、とお呼びすればいいですか?」と聞けば「いえ、『くん』で止めてください!」と中野くん。その中野くんが、「大きな玉ねぎの下で」の制作秘話を語るくだりでは、爆風スランプの当時の活動ぶりや、80年代のロック・シーンの交流ぶりが手に取るように伝わってくる。そして、最初に武道館のステージに立った時の想い出を臨場感豊かに語り、さらには大ヒット曲「Runner」がベーシストの脱退への思いを書いた曲だったこと、それが89年に一度延期になってしまった武道館公演とリンクしていたというエピソードも感動的だ。ちなみに中野くんは78年に、アリスのコンサートに警備員のアルバイトで参加したのが最初の武道館経験だったそうだが、その時にアリスの谷村新司が中野くんたちバイトに伝えたエピソードも、あっと驚くイイ話! いっぽう加藤いずみは、コーラスとして立った時の経験談も面白いが、コーラスの極意を語る、そのリアルな発言の数々に、MCの2人も感心することしきり。加藤が印象深い武道館ライブは、miwaがアコギ1本で武道館に挑んだ「アコギッシモ」のステージだったという。

日本武道館で最初にコンサートを行ったのは、ご存じの通り1966年のビートルズ来日公演。その後、幾多のビッグ・アーティストが武道館のステージに立ったが、80年代の半ばまでおよそ1万人規模の観客を収容できる屋内会場は武道館しかなかったため、当初は動員力のある大物ばかりが出演していた。80年代に入るとライブハウスからホール、そして武道館を目標とするアーティストが続出する。そういった歴史の流れを踏まえつつ、武道館がいかにアーティストにとって「神聖」かつ「特別な場所」であり続けているかが、中野くんと加藤のトークからもひしひしと伝わってくる回だった。

その日本武道館で、82年に10回にわたって公演を行ったオフコースが、B面(後編)の主役。こちらは長年、オフコースに取材し彼らに関する著書も発表している音楽評論家の小貫信昭が参加。オフコースはデビューから79年「さよなら」の大ヒットにこぎつけるまで9年かかったという苦難の歴史にはじまり、コーラスワークへのこだわり、小田と鈴木康博の2人時代から、新たに3人のメンバーを加えて5人体制となった理由、その際のアルバム「Three and Two」のジャケットの秘密、さらには各アルバムタイトルが示すグループの心境の変化まで、マニアックな情報が満載。

加藤は小田和正のコーラスを務めた経験を語るが、最初にあいさつした際に小田が加藤に放った衝撃のひと言に、出演者全員が仰天! この時のコムアイのリアクションと、慌ててフォローする飯尾の掛け合いは、まるで長年司会を続けているかのような錯覚を受けるほどの楽しさだ。

さらに中野くんが初めて小田に会った際に「やらかしてしまった」ミステイクについてもここで暴露!と、スタジオは爆笑の連続。ちなみに伝説の武道館公演はハガキ応募での抽選だったが、小貫は届いた50万通(!)以上に及ぶハガキの山を見たという。また、小貫がメンバー5人の個性について、それぞれあまりに的を得た例えを語るので、またまたスタジオは爆笑の渦に包まれた。オフコースや小田和正について語る際に、ここまで笑いが起きることもそうそうないだろう。ストイックなイメージのある小田和正像が、この収録回を観たあとではちょっとイメージが変わるかも? 

活動当時はテレビ出演もほとんどなく、アルバム制作とステージ活動を中心にしていたオフコースは、どこか神秘のベールに包まれた存在だった。それが、このB面の深掘りトークで、彼らの歴史はもちろん、日本の音楽シーンに与えた影響までを知ることができた。どんなテーマやアーティストが来ても、アットホームで楽しい雰囲気で包み込んでしまい、その実、深イイ話が満載の「MUSIC JUNCTION」は、これからの回にも更なる期待が高まる。
(文=馬飼野元宏)

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馬飼野元宏

音楽ライター。『レコード・コレクターズ』誌などのほかCDライナーに寄稿多数。主な監修書に『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(ともにシンコーミュージック)など。近刊に、構成を担当した『ヒット曲の料理人・編曲家 萩田光雄の時代』『同 編曲家 船山基紀の時代』(ともにリットーミュージック)がある。歌謡ポップスチャンネル『しゃべくりDJ ミュージックアワー!』ではコメンテーターを担当した。

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