クレイジーケンバンドの最新ライブ@日本武道館
2020.12.26秦野邦彦
「クールスRC」「ダックテイルズ」を経て、貿易会社などで働きながら職業作曲家として活動していた横山剣が1997年、「ZAZOU」時代からの盟友、小野瀬雅生、廣石惠一らと地元・横浜で結成。翌年、アルバム「PUNCH!PUNCH!PUNCH!」でデビューすると、リズム&ブルース、ニュー・ソウル、ジャズ・ファンク、歌謡曲といったジャンルの垣根を超えた自由奔放な全方位型音楽で老若男女を虜にしてきた。2017年に横浜赤レンガパーク野外特設ステージで結成20周年ライブ、18年には横浜アリーナでCDデビュー20周年ライブを開催し、大盛況となったことも記憶に新しいところだ。
幼い頃からバート・バカラックや筒美京平のような作曲家になりたかった横山は、今年7月に還暦を迎えても創作意欲はなお盛ん。次から次へアイデアが溢れ、コロナ禍でのステイホーム中も動じることなく曲作りに没頭できたという。緊急事態宣言後はライブやイベントが中止・延期となるも、6月と9月にオンラインライブ「インターネットのクレイジーケンバンド」を開催。そして10月には20作目のオリジナルアルバム『NOW』をリリース。先行シングル曲「IVORY」を筆頭に、エネルギッシュでスタイリッシュなクレイジーケンバンドのNOW=「今」を余すことなく記録した一枚が完成した。
今回テレビ初放送となるのはその最新作のタイトルを冠し、10月30日に東京・日本武道館にて開催された『CRAZY KEN BAND * NOW at 日本武道館』。なんと彼らが日本武道館でワンマンライブを行うのは2005年11月の「SOUL PUNCH 2005 CRAZY KEN BAND SHOW」以来15年ぶりのこと。当日は新型コロナウイルス感染防止のためソーシャルディスタンスを確保すべく会場キャパシティーの半分以下に客席数を絞り、オンラインでの生配信も併せて実施。
約8カ月ぶりとなる彼らの有観客ライブとあって、開演前から観客の興奮も最高潮。揃いのブラックスーツ姿のバンドメンバーがステージに現れ、司会のコハ・ラ・スマートが流れるような口上を披露すると、各所から思わず「上がる」「待ってました」とばかりの拍手と歓声。「絢爛豪華、ィヨコハマ、ィヨコスカサウンドが今夜、貴方の身体を直撃いたします! 最後まで存分にお楽しみくださいますように!」とのアナウンスに導かれるように、マスクをした横山劍が登場。ファンキーな1曲目「女と海と太陽と」に続く人気曲「あぶく」では、感動のあまり歌い出しの歌詞を間違えてしまい「これ大事な曲なんで!」とやり直すハプニングが発生。先行きが見えず不安だった日々を吹き飛ばすかのようにメンバー・観客全員が笑顔になる瞬間だった。
ステージ中央に『NOW』の文字のモニュメント、メンバーの頭上には楽曲にシンクロした映像が次々と展開する巨大モニターが設置されたこの日の日本武道館。曲間のMCで「よくも、悪くも、こんな体験滅多にあるもんじゃございません。今日はひとつ、これまで味わったことのない未知の世界、スペイシーな世界を皆さまと一緒に旅していきたいと思います」と横山が挨拶し、次々と披露されていく珠玉のナンバー。途中、換気のための休憩を挟んで、大ヒット曲「タイガー&ドラゴン」〜最新アルバム『NOW』収録の新曲「ヨコスカ慕情」〜横須賀線つながりで「せぷてんばぁ」〜再び『NOW』から新曲「だから言ったでしょ」「9月21日」をしっとりと聴かせてくれた。
アルバム『NOW』リリースから間もないライブとあって、バンドとしてもまだまだ育てている最中だが、それでもやらずにいられなかったと語る横山。「まさにこの、のっぴきならない状況下の、夜と朝の間にひっそりと生まれた曲たちです」と感慨深げなコメントに続いて、『NOW』から紅一点メンバーのアイシャとのデュエット曲「愛があるなら年の差なんて」、スキャットが印象的なボッサ歌謡「SSS」を披露。
恒例の小野瀬雅生ショウのコーナーでは超絶ギタープレイが炸裂する「イカ釣り船」、リクエストコーナーでは飛沫対策で観客の要望をテレパシーで受信して披露(結成45周年のあのバンドの曲も!)するというユーモアあふれる粋な演出で魅了してくれた。「いやあ、最高だね! 異次元だね。宇宙だね。なんかあるね、武道館ってネ!」。果たしてどの曲をやってくれたのか、そしてここで紹介しなかった曲、アンコール曲は、ぜひともオンエアでお楽しみいただきたい。
2020年は世界中の人々にとって本当に苦しい一年だったが、音楽には憂さを吹き飛ばす力がある。
音楽を愛し、希望と勇気を忘れず「今」を体現するクレイジーケンバンドのライブを観て、「明日」への英気を養おう!
(文=秦野邦彦)