コロナ禍で敢行された純烈の“濃密な”配信コンサート

2020.12.28児玉澄子

デビュー10周年を迎えた2020年、3年連続のNHK紅白歌合戦出場を決めた4人組ムード歌謡グループ・純烈(酒井一圭、白川裕二郎、小田井涼平、後上翔太)が、11月5日にLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で初の有料生配信コンサートを開催した。

コロナ禍によってあらゆる活動の制限を余儀なくされた2020年だが、純烈ほど「ソーシャルディスタンス」という新語が似合わないアーティストもいない。何しろ彼らのコンサートはファンとの物理的な距離がとにかく近い。それは会場がスーパー銭湯であってもホールであっても変わらず、歌いながらステージを降りて客席をラウンドし、ファンと握手やハグを交わすのが名物となっている。

悲願の初出場となった2018年の紅白歌合戦では、スーパー銭湯を再現したセットに熱狂的なファンを30人配置。歌唱中のメンバーに駆け寄り、汗を拭うファンの姿に初めて見る視聴者はド肝を抜かれただろうが、純烈コンサートではおなじみの光景だ。

当然、2020年はそうした密な触れ合いはおろか、5月に予定していた10周年ツアーをはじめほとんどの公演が中止・延期に。6、7月にはスーパー銭湯で収録したライブの配信を実施したが、何より「人と人との触れ合い」にこだわってきた彼らだけに、完全なる無観客には逡巡もあったに違いない。“3密”を避けながらでも「ファンと繋がる方法」を模索して行き着いたのが、実に120日ぶりの生歌唱となる本公演だった。

観客は2000人収容の会場にファンクラブ会員の抽選で選ばれた1名のみ。2曲目からさっそく後上はエアタッチ、白川はマジックハンドで握手、小田井は長さ2メートルのバトンを手渡すといった方法でソーシャルディスタンスを保った触れ合いが展開される。酒井に至っては、口に加えたゴムパッチンの端を観客に持たせて「繋がる」形に。もちろん観客の手を離れたゴムは勢いよく酒井の顔面をヒット! コロナ禍を笑い飛ばすような一見バカバカしい演出にも全力で体を張るのが純烈のステキさである。

とは言え、やはり画面の向こうのファンとの繋がりは実現できていない。純烈の観客数が2ケタ台の頃から司会を務めてきた俳優・今林久弥も登場し、「こんなんでお前ら本当に紅白出たいと思ってるのか?」と煽る(本公演実施時点では2020年の紅白出場は未発表だった)。

そこで3曲目では酒井と後上が上半身裸となり(酒井の見事なデベソに注目)、プロレス団体DDTのユニット・準烈の秋山準選手から気合いのチョップを受ける。4曲目では白川の艶かしい生着替え、5曲目では小田井がファンの歓声を録音したサンプラーを鳴らしながらの歌唱と、さらにあらゆる手段を講じて画面の向こうとの距離を縮めようと奮闘する。

しかしまだ何かが足りない。そこにかつて酒井も参戦したプロレス興行・マッスルでも縁のある覆面レスラー、スーパー・ササダンゴ・マシンが登場し、「withコロナとSNS時代における純烈の生き残り戦略についての考察」と題したプレゼンを敢行。ササダンゴいわく「芸能人は『いいね』をもらってナンボだが、純烈はお客さんに『いいね』をあげる存在でいて欲しい」。大事なのは純烈コンサート名物のラウンドに象徴される「構い合い」であり、これを配信ライブでも実現しようと言うのだ。

ササダンゴの提案により、4人はスマホを手に。そしてメドレーの歌唱中、Twitterで「#純烈」をつけた投稿に対してメンバーが「いいね」を送るオンラインラウンドが実施された。一方通行に声援をもらうのではなく、目の前まで出向いて言葉で、体で、笑顔で応える。それが純烈が一貫してこだわってきたファンとの繋がりだ。

ステージのスクリーンには、事前に募集したメンバーとの思い出の写真が映し出されていく。コンサートも後半戦、紅白初出場曲『プロポーズ』に続く、デビュー曲『涙の銀座線』という10年の軌跡をたどる流れに白川が声を詰まらせた。

「この曲を聴くと、なんだか昔の自分に戻ったような気分になって。結成して3年、毎日ボイストレーニングしかしなくて、こんなんじゃ紅白どころかデビューできるのかって。それでも諦めたくなくて頑張って頑張って──」

もちろんコンサートには台本というものがあり、ここで白川が歌を止めるのも演出の一部だったのだろう。しかし白川が口にした"セリフ"には、結成から決して順風満帆でなかった彼らの真実が詰まっていた。

1人1人のファンを掴む着実な歩みを続け、今や歌番組のみならず、バラエティー番組でも引っ張りだこの人気者になった彼ら。しかし主戦場はやはりファンと触れ合うコンサート。そのステージを奪われた今年は、個々のメンバーでの活躍も目立った。ファンとしてはうれしい反面、4人揃った純烈への渇望もあったはずだ。

司会の今林が「このコンサートの本当の目的は、コロナの影響でバラバラになってしまった純烈、ファン、スタッフ、関わるすべての人の心を1つにすることだった」と涙ながらに明かすと、酒井も思うように活動できなかった2020年の葛藤が一気に湧き上がってきたのか「台本なのにね」とガチの男泣きをしてしまう。白川に肩を叩かれて、コンサートはフィナーレへ。中盤までの賑やかさが嘘のような感動の空気がステージを埋め尽くした。

(文=児玉澄子)

<セットリスト>
#1 純烈のハッピーバースデー
#2 ひとりじゃないから
#3 また逢う日のために(歌:後上翔太・酒井一圭)
#4 愛は死なない(歌:白川裕二郎)
#5 恋のチューリップ(歌:小田井涼平)
#6 純烈10周年メドレー(今夜はドラマチック/恋は青いバラ/キサス・キサス東京/星降る夜のサンバ/愛でしばりたい)
#7 プロポーズ
#8 涙の銀座線
#9 見上げてごらん夜の星を
#10 愛をください~Don’t you cry~
#11 人間だもの

jre

児玉澄子

芸能、音楽ライター。1994年、日本大学芸術学部卒業後よりフリーランスとして活動。インタビューを中心に分析記事なども執筆。

純烈

関連番組

最新の記事