歌う青春スターの代名詞 俳優・中村雅俊の魅力

2021.08.26鈴木啓之

夏木陽介主演の『青春とはなんだ』以来、日本テレビ系で放映されていた学園青春シリーズの一本、『われら青春!』の主役に中村雅俊が抜擢されたのは、1974年のこと。中村が扮した沖田俊は新しいタイプの教師だった。熱血漢であることは歴代と変わりなくも、より生徒たちに近い目線の友達的な感覚が色濃く、ひたむきな姿が視聴者を魅了した。

『われら青春!』では、歌手・中村雅俊も誕生している。名フレーズ"涙は心の汗だ"が織り込まれた主題歌「帰らざる日のために」をいずみたくシンガーズが歌ってヒットしたのに続いて、中村のデビュー曲となった挿入歌「ふれあい」がなんとオリコンチャート1位を獲得したのだ。それまでのシリーズでは、主演俳優が主題歌や挿入歌を歌うことはあっても、なかなかヒットには結びつかなかった。それが初めてミリオンセラーとなり、年間チャート4位を記録する予想外の大ヒットとなった。フォーク調の曲が流行っていた時代背景にもマッチしたのだろう。当初はA面となる予定だったカップリング曲「青春貴族」はガラリと異なる曲調ながら、劇中で披露されたキャンプファイヤーなどで合唱するのに最高である。

「ふれあい」で一躍その名を馳せた中村は、テレビ、映画、CMなど幅広く活躍し、歌手としてもコンスタントに作品を連ねてゆく。松田優作とのダブル主演となった刑事ドラマ『俺たちの勲章』では吉田拓郎が作曲した挿入歌「いつか街で会ったなら」がヒット。そして青春ドラマに新機軸を打ち出した『俺たちの旅』でも、小椋佳作詞・作曲による主題歌「俺たちの旅」が大きなヒットとなる。ドラマのエンディングに流れた「ただお前がいい」も、毎回画面に映し出された青春の詩と合わせて、強い印象を残す名歌であった。

俳優と歌手を両立させての活躍ぶりは、かつての加山雄三を彷彿させるものがある。自ら作曲もする加山は、エレキブーム~GSブームの渦中に独自のスタンスでヒット曲を連発したが、中村もフォークやアイドル勢が主流となっていた歌謡界で、歌う俳優という特別な存在感を放ちながらヒットを連ねた。ちなみに二人は年齢こそ一回り以上違えど、慶應義塾大学出身、妻が女優といった共通点もある。女性ファンのみならず、男性にとっての憧れの対象になったのも似ている点ではないだろうか。正しく時代のヒーローであったのだ。

『俺たち』シリーズが3作続いた後、日テレ青春シリーズが再び学園ドラマに回帰した1978年の『青春ド真中!』で、中村は再び教師役に挑む。主人公の中原俊介は、『われら青春!』の沖田俊と『俺たちの旅』のカースケこと津村浩介が合体したような、女好きで熱血漢の破天荒なキャラクター。主題歌は吉田拓郎作曲による「青春試考」で、松本隆の作詞が新鮮だった。そしてキャストとスタッフの多くがスライドした形の続篇『ゆうひが丘の総理大臣』は、学園ドラマの集大成的な作品となる。中村は主人公の大岩雄二郎役を奔放に演じて大人気を博した。オープニングの「時代遅れの恋人たち」と、エンディングの「海を抱きしめて」はいずれも出色の主題歌で、『俺たちの旅』の2曲に匹敵する傑作といえる。天才作曲家・筒美京平が中村に提供した最初で最後の作品となったが、山川啓介の瑞々しい詞、大村雅朗の躍動感溢れるアレンジと相俟って、ドラマと共に今も愛され続けている。

その後も多くのドラマや映画で活躍する中で、80年代にも歌手としての大きなヒットがまた生まれた。1981年秋に出され、翌1982年になってからオリコンチャート1位を記録した「心の色」は、大津あきら×木森敏之の作。当初は主演ドラマ『われら動物家族』の挿入歌だったが、好評を得て途中から主題歌となる。『ザ・ベストテン』では1982年の上半期1位、年間4位に輝いて、歌う俳優の健在ぶりを示した。

さらにこの年は、歌手活動のターニングポイントとなる曲にも出会う。桑田佳祐が作詞・作曲した「恋人も濡れる街角」である。桑田はそれ以前にも中村に「マーマレードの朝」という作品を提供していたが惜しくもヒットには至らず、そのリベンジの意味もであったという。映画『蒲田行進曲』とドラマ『おまかせください』のダブルタイアップとなる強力なプッシュも手伝い、今度は見事にヒット。この曲で中村は桑田から大きな影響を受けたとおぼしく、以降の歌唱スタイルにも変化が見られた。歌詞がかなり際どい内容ながらも、横浜を舞台にしたヒットソングの中でも指折りのスタンダードナンバーとなっている。

デビュー以来、コンサート活動にも注力され、忙しい俳優仕事と並行してツアーがたゆまずに続けられているのは、本人の真摯な取り組みと努力はもちろんのこと、俳優と共に歌手・中村雅俊もそれだけ大衆から広く支持されてきた証拠である。そのスタンスは、後輩の福山雅治らにも受け継がれている。古稀を迎え、デビュー50年も間近というのが信じられないほど若々しい永遠の兄貴、中村雅俊の活躍はまだまだ続く。『中村雅俊ビルボードライブ「DAWN」』(2021829日(日)放送)をご覧いただければ、今もなお青春時代の輝きを失っていない、俳優・中村雅俊の魅力に改めて気づかされるはずである。

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鈴木啓之

1965年東京都生まれ。アーカイヴァー。テレビ制作会社勤務、中古レコード店経営を経て、ライター及びプロデュース業。昭和の音楽、テレビ、映画を主に、雑誌への寄稿、CDの企画・監修、DVDのライナーやオーディオコメンタリー、イベントの企画・主催などを行なう。著作に「東京レコード散歩・追歩版」(東京ニュース通信社)、「昭和歌謡レコード大全」(白夜書房)、「王様のレコード」(愛育社)、「アイドル・コレクション80’s」(ファミマ・ドット・コム)ほか共作も多数。「ラジオ歌謡選抜」(FMおだわら)に出演中。 https://twitter.com/figlio_unico

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