すべてが新しい――シンガーソングライターのかたち。リスナーを共感させる川崎鷹也が、スペシャルな空間「御茶ノ水 RITTOR BASE」で紡ぎ出す世界

2021.10.15秦野邦彦

アーティストの「いま」をライブパフォーマンスとして「リアル」に切り取りお届けする『WOW!iSM ―L!VE― 』。今月はシンガーソングライター川崎鷹也のパフォーマンスを東京・「御茶ノ水  RITTOR BASE」から極上の音楽体験としてお届けする。

2020年8月、川崎鷹也の「魔法の絨毯」がTikTokで話題になり、Spotify「バイラルTop50」で14週に渡って1位を獲得。同チャートで首位を獲得したYOASOBI「夜に駆ける」、瑛人「香水」同様、2020年を代表する1曲となったことは記憶に新しい。

「魔法の絨毯」のヒットの仕方がユニークなのは、発売から2年の時を経て“見つかった”ことだ。2018年7月25日、インディーズレーベルからリリースされた1st.アルバム『I believe in you』。その3曲目に収録された新人シンガーソングライターの真摯なラブソングが琴線に触れたユーザーが風景写真に合わせた動画をTikTok上にアップしたところ、「この曲は何てタイトル? 歌っているのは誰?」と注目を集め、あっという間に同曲を使った動画が爆発的に増加。現在までにTikTok総再生回数は3億回を突破。バンドVer.として再レコーディングしたミュージックビデオも公開から1年でYouTube再生回数4500万回を記録している。

ストリーミングで音楽を聴くことが当たり前の世代にとって、アーティストのネームバリューや、いつリリースされたものかはさほど重要ではない。大事なのはリスナーが聴いて純粋に共感・共有したかどうか。「魔法の絨毯」でフックとなったのは、まず川崎のハスキーでビブラートの効いた優しい歌声だろう。高校3年の文化祭で歌ったHY「366日」、サザンオールスターズ「真夏の果実」に手応えを感じた彼は音楽で生計を立てたいと考え、高校卒業後、東京の音楽学校でボーカルを学ぶことを決意する。上京の背中を押してくれたのは高橋優の「少年であれ」という曲だった。最初のギターを買ったのは19歳のとき。2017年からソロ活動を開始。学生時代に多大な影響を受けた高橋優、秦基博、Mr.Children、サザンオールスターズへの敬意を胸に、リアリティーを大事にした楽曲制作に取り組んでいく。

「魔法の絨毯」がこれほど人々の心を動かしたもうひとつの要因は、地位も名誉もないけれども君のことを離したくないというストレートなサビだ。大切な人の顔が浮かんだ人も多いだろう。家庭を持っている人は若い頃を思い出したかもしれない。アラジンのように魔法の絨毯に乗って迎えに行くというくだりは、当時付き合っていた彼女に誘われて初めて観た劇団四季のミュージカル「アラジン」にいたく感動した川崎自身の体験が反映されていた。インタビューによると、その彼女は現在の奥様で、学生時代からずっと憧れていた同じ高校の先輩だった。彼の誠実さを示すこのエピソードが同曲の人気を後押ししたことは間違いない。

溢れる想いをそのまま歌にした「君の為のキミノウタ」。遠く離れた人に手紙で感謝の気持ちを伝える「拝啓、ひまわり」。卒業をモチーフに臆病で弱虫な心情を吐露した「サクラウサギ」。コロナ禍で苦境に立たされるスポーツ・音楽業界の灯を消さないように武井壮の呼びかけで書き下ろした応援歌「ひとりの戦士」。川崎鷹也が書く詞はどれも真っ直ぐで、ひたむきだ。思ってもいないこと、体験したことがないことは書けないんです、と彼は言う。

ブレイク後、さまざまなコラボレーションが行われてきたが、中でも目をひいたのが今年作詞活動50周年を迎えた作詞家・松本隆のトリビュートアルバム『風街に連れてって!』に収録された「君は天然色」のカバー。大滝詠一のアルバム『A LONG VACATION』冒頭を飾る名曲中の名曲だが、これは同アルバムのプロデューサー亀田誠治たっての希望によるオファーだったそうだ。ここで川崎は1番、2番、3番で同じ詞のサビを微妙に感情を変えて歌い分ける。1番の「そばに来て」は少しかっこつけて、2番では手を伸ばして訴えるように、3番では心の底から叫ぶ。「魔法の絨毯」のサビも3番だけわずかに詞を変えていたが、そうした繊細な表現も彼の持ち味であることに気付かされた瞬間だった。

来たる12月には、全曲新曲で構成された初のメジャーオリジナルアルバム『カレンダー』 の発売を控える川崎。先行配信中のタイトル曲は、川崎が「魔法の絨毯」から約4年ぶりに妻に向けて書いたという自身のリアルラブソング。他にどんな曲が待っているのか、今から待ち遠しいかぎりだ。 

今回の『WOW!iSM ―L!VE―』の収録場所である「御茶ノ水 RITTOR BASE」は、ギター・マガジンなど数々の音楽専門誌で知られる老舗、リットーミュージックが楽器の街・御茶ノ水に開設した多目的スペース。楽器の音がより良く響くことを第一に設計されており、音響拡散体を多数導入するとともに床材にはギターの指板にも使われるローズウッドを採用。反射と拡散が絶妙にブレンドされた心地良い響きを演奏者に返すため、特に川崎のようなアコースティック・ギターの弾き語りで歌を聴かせるタイプのアーティストにとっては最良のパフォーマンスを引き出す理想的な環境といえるだろう。

音響機材もメイン・スピーカーにGENELEC S360Aとサブ・ウーファーの7380Aを導入し、CODA AUDIOの小型スピーカーD5-Cubeを8台設置。さらには「御茶ノ水 RITTOR BASE」のために組まれた立体音響リバーブ=Cubic Chiverbにより、教会やホール、洞窟など、さまざまな音響空間を作り出すことができる。 設備の説明を聞きながら「うわあ、すごいなあ。これは気持ちいいだろうなあ」と嬉しそうな川崎。ギターをつまびきながらの入念なサウンドチェック、スキャットを交えた喉のウォーミングアップの様子が見られるのもファンには貴重な瞬間だろう。

すべての準備が整い「やりますか」とマイクに向かえば、さあ本番。オンエアでもRITTOR BASEの音響環境を擬似的に体験できるので、まるで目の前で自分のために歌ってくれているような気分になること間違いなし。極上の音響空間で繰り広げられるアコースティックギターと歌声のパフォーマンスを存分に味わっていただきたい。

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秦野邦彦

1968年生まれ。ライター。『テレビブロス』『フィギュア王』『映画秘宝』『スカパー!TVガイド』、音楽ナタリー、OPENERSなどで音楽、映画、テレビ、フィギュア関連記事を寄稿。構成を担当した書籍にPerfume 『Fan Service[TV Bros.]』(東京ニュース通信社)など。

川崎鷹也

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