バブル経済、昭和の終焉…時代背景を重ねて楽しむ

2020.12.08馬飼野元宏

80年代後半から毎年、クリスマス・シーズンにNHKで放送されていた音楽番組が「X'masポップス&ロック」だ。時代の空気感をパッケージしたロックの祭典、今観ると貴重なパフォーマンスがずらりと並んでいる。

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当時の日本のロック・シーンや音楽番組の状況などは、前回のコラムで書いたが、今回放送される88年12月24日放送の「POPS & ROCK 1988ライブスペシャル」は、まさに成熟期にあった日本のロック・シーンを代表するアーティストたちが総集合。出演者のうちほとんどがバンドであることも、この時代の音楽シーンを象徴している。今回はそれぞれの出演アーティストの当時の活動状況などを中心に紹介していこう。

まず、トップ・バッターで登場する爆風スランプは、この年に発表した「Runner」で大ブレイクを果たした。この曲を同じNHKの『ジャストポップアップ』で披露したところ、リクエストが殺到し、大ヒットに結び付けたのである。『ジャストポップアップ』のクリスマス特番的な位置づけにある『POPS & ROCK 1988ライブスペシャル』で「Runner」を披露することは、彼らにとっても大きな意味があったであろう。

まさしくここがブレイクのタイミングだったアーティストにはプリンセス・プリンセスもいる。同番組では彼女たちの代表作となる「19 GROWING UP」を披露しているが、この88年に彼女たちはこの曲で一躍注目を浴びた。

UNICORNは「ペケペケ」を披露。前半をEBIこと堀内一史が、後半を奥田民生が歌っているが、とにかく若い!番組テロップでは「若手のホープ」と紹介されているのが今となっては隔世の感がある。PSY・Sもまた若い! ことに松浦雅也のルックスには時代を感じさせるものがある。

RED WARRIWORSが代表曲「バラとワイン」をワイルドなアメリカン・ロックスタイルで披露したあとは、THE STREET SLIDERSのメンバーが何とも無愛想な表情で1人ずつ「メリー・クリスマス」とボソッと(嫌そうに)呟いているのが何とも可笑しい。THE STREET SLIDERSといえば当時は不良ムードをプンプンさせ、特にボーカルのハリーは取材でもインタビュアー泣かせと言われるほど無口で、バンドもライブでは一切アンコールをやらないので有名だった。その彼らがやはり想定通りのたたずまいで、代表作「Baby, Don't Worry」を披露する姿は、実にシブイ。

バービーボーイズ、米米CLUBなど、まさしく人気絶頂期でライブ動員力の高いバンドも出演。いずれも、いわゆる普通のロック・バンドとはだいぶスタイルを異にしており、前者は男女ボーカルの掛け合い、後者は大所帯でサーカスのようなパフォーマンスが売りであったが、彼らが成功をおさめたのも、やはりライブで観るべき楽しさを持っていたからであろう。ことに米米CLUBが披露した「Shake Hip!」は彼らならではのファンキーなダンス・チューン。クリスマスのお祭りにふさわしいパフォーマンスをみせてくれた。加えて前年に大ブレイクしたTM NETWORKも、この年は傑作アルバム『CAROL』発表の年で、彼らはこの年、同番組で披露した「COME ON EVERYBODY」で『紅白歌合戦』にも出場した。

勢いのいいニュー・カマーもいれば、円熟期に入りつつあるバンドも多数。チェッカーズは86年10月の「NANA」以来、メンバーの自作曲でヒットを飛ばすようになり、アイドル的人気をキープしながらも本格的なアーティストへと移行していく時期にあった。「素直にI'm Sorry」を歌うボーカル・藤井郁弥のパフォーマンスは、放送を見ていても視線の投げ方、手の動かし方など1つひとつがセクシーで魅力的である。

REBECCAもまた、ボーカルのNOKKOがパープルのドレス姿でしっとりと「One More Kiss」を歌う姿は、ジャネット・ジャクソンを思わせるビジュアルも含め、「フレンズ」の頃の、ガーリーな魅力から大人の女性に変貌したことを強く印象付ける。大沢誉志幸がエレキ1本で歌う「一人きりアヴェニュー」も、そのハスキーなボーカルがしみじみと響く。そして、最早ベテランの域にあるVOW WOW(現・BOWWOW)。80年代前半には、既に海外のフェスに多数出演し、日本のハード・ロック・バンドとして国際的な活躍をみせていたが、「ヘルタースケルター」の重厚な演奏はまさに圧巻。日本ロック界の重鎮といった雰囲気さえある。

まだ、この時代は「ビジュアル系」という言い方は存在していなかったが、まさにその元祖的な存在であるBUCK-TICKも出演。前年にメジャー・デビューしたばかりの彼らは、ボーカル・櫻井敦司の美しさと、ゴス系のニュー・ウェーブ・サウンドの「顔音一致」ぶりが圧巻で、彼ら独自のデカダンなムードもこの時代ではやや異質な印象があったに違いない。それにしても当時20代前半の櫻井のルックスと化粧ノリの良さは群を抜いており、男でも惚れ惚れとその画面に見入ってしまうほどだ。やはりボーカル・広石武彦のルックスとスタイルの良さがその音楽性とマッチしたUP-BEATの魅力も外せないところ。こういったビジュアル面の素晴らしさもじっくりと堪能できるのが、この番組を見る楽しみである。

88年といえば、バブルど真ん中ということもあり、出演アーティストたちのファッションやメイクにも時代を感じさせるものが多い。バービーボーイズの杏子のメイクや、プリンセス・プリンセスのメンバーたちの、盛った髪型などは、同じ時代を生きた女性視聴者には、懐かしさを呼び起こさせるであろう。男性陣も、やはりバービーボーイズのコンタのカチッとしたスーツや、REBECCAの小田原豊が履いているダメージ風ジーンズに、バブル期の面影を見る人も多いかもしれない。この時代、ロック・ミュージシャンはトレンド・ファッションを着こなし、時代の先端にいたことがよくわかるのだ。

一方で88年の年末というと、誰もが想い出すのは、翌年1月初頭の昭和天皇崩御に至るまでの自粛期間の空気だろう。一つの時代の終焉が迫っていることを実感しながら、目に見えない緊張感が日本を覆っていた。そういった張りつめた空気をひとときでも吹っ飛ばす若者の祭典が、この「POPS & ROCK 1988ライブスペシャル」だったのだ。その華やかで楽しいシーンは、出演者たちによる「Santa Claus Is Coming to Town」のマイク・リレーで最高潮を迎える。この貴重な映像、お見逃しなく!

(文=馬飼野元宏)

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馬飼野元宏

音楽ライター。『レコード・コレクターズ』誌などのほかCDライナーに寄稿多数。主な監修書に『昭和歌謡ポップス・アルバム・ガイド』『昭和歌謡職業作曲家ガイド』(ともにシンコーミュージック)など。近刊に、構成を担当した『ヒット曲の料理人・編曲家 萩田光雄の時代』『同 編曲家 船山基紀の時代』(ともにリットーミュージック)がある。歌謡ポップスチャンネル『しゃべくりDJ ミュージックアワー!』ではコメンテーターを担当した。

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